どこからともなく秋の甘い香りが漂う。
この優しく甘い香りが好きで、懐かしい。
その昔、実家の庭の片隅に、金木犀の木があった。
ある日突然、たくさんの橙色の花を一斉に咲かせ、強い香りを放ち始める。
縁側のサッシを開けると、庭は甘い香りが立ち込めている。
縁側に座り、大きく息を吸い込む。
うっとり目を瞑り、お腹も香りで満たしていく。
甘い香水をまとい、お姫さま気分になった。
春はジンチョウゲ(沈丁花)、夏のクチナシ(梔子)、秋のキンモクセイ(金木犀)、そして冬はロウバイ(蠟梅)花たちが風に乗せて届ける香り便り。
季節の兆しを感じさせる柔らかく甘い香りは、花たちが自分に寄り添ってくれている気がして、心が緩み、優しい気持ちになった。
そして、今、レモンや白桃、バラやスミレの香るワインに思わず、目を瞑る。
グラスから漂う香りが、優雅な気分とリラックスタイムを運んでくれる。
時代は、昭和天皇の崩御、そしてベルリンの壁の崩壊…と、変動の平成元年頃にタイムスリップ。
1988年の秋、昭和天皇の病状が悪化し、日本は自粛ムードに覆われた。
大規模なイベントやパーティは中止となり、当然ながらヌーヴォーの売れ行きも大きく落ち込む。
大量発注をしていた百貨店や酒販店は在庫を抱え、クリスマス後のケーキのように投げ売りしても買い手はつかず、ボジョレー ヌーヴォーに象徴されるワインブームも短命に終わる。
一方で、翌1989年、酒税法が改正され、さまざまな国や産地のワインが輸入されるようになり、輸入ワインのシェアは伸びていった。
この記事を書いた人は…
AYUMI IKEDA|池田 あゆ美
自然派ワイン専門店『ピクール』店主。映画業界、音楽業界、出版業界、IT業界…その時代時代で色濃く表現されるエンターテイメントが好きで、時代のニーズを捉え、それら一つ一つを私は職業としてきました。当時、男性社会と言ってもいいほどの厳しい業界をがむしゃらに走ってきたせいか、身体はボロボロ…。そんなときに訪れた地中海で「食卓」から生まれる人生の楽しさや豊かさに感銘を受け、今のナチュラルワインの仕事へと導かれていきました。ワインだけでなく、食、旅、音楽、映画など、一見関係ないジャンルの感性も大切にして、ワインを選ぶようにしています。ワイン通信販売、業務用卸売、ワインコンサル、セミナーなど、様々なニーズに丁寧にお応えします。