1964〜 ワインブーム クロニクル 前編

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「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人か言いあててみせよう」と、上から目線で語るのは、フランスの政治家で、美食評論家だったブリア サヴァラン。

彼の著作で19世紀のフランスでベストセラーとなった食のバイブル『美味礼讃』の箴言。

現代では、食と社会についての古典作品として、読まずにおけない本となっている。

この本が出版されたのは1825年。

フランス革命と産業革命を経て、市民階級が勃興した時代にあって、それまで一部の富豪が料理人を雇い豪勢な食事を楽しんでいた時代から、庶民にも料理を楽しむ文化が広がり出した頃だ。

特権階級に雇われていた料理人たちが職を失い、レストランが生まれた。

そして、産業化により食料の流通や料理の機械化も進み、食文化が大きく発展し食が豊かになり始めた。

そんななかでブルジョア階級だったブリア サヴァランが独断と偏見たっぷりに、美食の魅力や食事の極意をおしみなく披露しているのが本書だ。

1964年→2021年、じつは、日本のワイン ブームは、この57年間に凝縮されている。

1回目の東京オリンピックは「東洋の奇跡」と呼ばれた高度成長期。

調べてみると、この頃の日本人のワイン飲酒量はほぼゼロに近い。

なぜなら、当時の円ドル為替レートは1ドル=360円の固定相場制。

輸入品は舶来品と呼ばれ、高嶺の花だった。

一方で日本のワインは、今のようなレベルにはほど遠く、赤玉ポートワインのような原酒に砂糖や香料を加えた甘味ブドウ酒が主流だった。

そもそも当時の日本人の嗜好や食生活には、酸味や渋味の強い本格的なヨーロッパのワインは口に合わなかった。

この記事を書いた人は…

AYUMI IKEDA池田 あゆ美

自然派ワイン専門店『ピクール』店主。映画業界、音楽業界、出版業界、IT業界…その時代時代で色濃く表現されるエンターテイメントが好きで、時代のニーズを捉え、それら一つ一つを私は職業としてきました。当時、男性社会と言ってもいいほどの厳しい業界をがむしゃらに走ってきたせいか、身体はボロボロ…。そんなときに訪れた地中海で「食卓」から生まれる人生の楽しさや豊かさに感銘を受け、今のナチュラルワインの仕事へと導かれていきました。ワインだけでなく、食、旅、音楽、映画など、一見関係ないジャンルの感性も大切にして、ワインを選ぶようにしています。ワイン通信販売、業務用卸売、ワインコンサル、セミナーなど、様々なニーズに丁寧にお応えします。