果実の香りが導く赤ワインと食卓

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ワインを口に含んだときに立ち上る香りには、不思議な力があります。ときに思い出を呼び覚まし、ときに想像をかき立てるその香りは、単なる飲み物の枠を超えて、私たちの味覚の記憶と強く結びついています。

特に赤ワインに多くみられる「果実の香り」は、料理との相性以上の「香りによる対話」を生み出します。それは、果実の甘酸っぱさ、熟れた実の深み、あるいは青さを帯びた爽やかさが、食材の持つ風味と調和したときに生じるものです。

ラズベリーやスグリ、グロゼイユのような赤い小粒の果実の香りは、冷涼な気候で育ったピノ・ノワールやマスカット・ベーリーAといった品種に特徴的に感じられます。甘さよりもむしろ酸味の印象が強く、それがワインに爽やかな輪郭を与えます。このような香りの赤ワインには、同じく繊細で酸味やほろ苦さをもった食材がよく合います。

たとえば「赤じそを使った梅肉和え」や、「鶏ささみと柚子胡椒の和え物」のような料理は、果実香と柑橘や薬味の香りが互いに高め合い、香りの層に奥行きをもたらします。

熟したラズベリーや木いちごのような香りは、香りそのものにどこか愛らしさと懐かしさがあります。日本でよく飲まれるマスカット・ベーリーAの赤ワインには、いちごジャムのような甘やかさと、やや青みが残る香りが同居しており、それが和食との相性を特別なものにしています。

「鶏の照り焼き」や「豚肉の生姜焼き」のような料理は、甘辛いタレと果実の香りが交差し、果物の煮詰めたソースを添えたような一体感が生まれます。これは、素材と香りが構造として近いからこそ生まれる重なりです。

この記事を書いた人は…

ITARU TESHIMA手島 格

自然派ワイン専門店『ピクール』店主2号。現在、ワインコンサル、ワイン販売、飲食店へのソムリエ派遣など、ワインに関わる多くのことに対応させていただいております。世の人が少しでも楽しく幸せになれるように「楽しませて、自分も楽しんで」をモットーにしています。ワイン業界以前は、WEBゲーム業界において、デザイン、システム開発、企画などの現場業務からマネジメントまでと、様々な経験を積み重ねてきました。寝食を犠牲にした分、それが礎となり、今でも役に立っているような気がします。仕事も趣味も多岐に渡りすぎたのか、独立すると、なんでも屋に…笑。今の趣味はダンスから柔術へ。WEBブランディング、ロゴ制作、ホームページ、写真撮影、社内システム整備など、ワイン以外でのご相談もどうぞ。 tessy.work