【今回のワイナリーは…】
ハツィダキス / Hatzidakis
【生産者は、こちらの方…】
ハリディモス ハツィダキス / Haridimos Hatzidakis
くもり
9.4℃
87%
3.09m/W
05:07
15:04
ギリシャ語のカリステ、「最も美しいもの」と呼ばれるエーゲ海に浮かぶ島サントリーニ。
絵本に出てくるような白い街並みと吸い込まれそうなほどの紺碧の海、まばゆい太陽と青い空…きらきらと輝く地上の楽園。この風景を求めてたくさんの観光客が訪れる。
けれど、私がこの島に来た理由はほかにあった。
いにしえの時代から独特の手法でブドウを育て、脈々とワインを造っている。ギリシャのなかでも恵まれたワイン産地の一つがこの島だ。
有機栽培のワインを造ることで知られる、ドメーヌ ハツィダキスを訪ねる。
観光客がほぼ足を運ばない、小さな村ピルゴスを目指した。小高い丘の村を囲むように広がるブドウ畑。
ブドウ畑に立つと、たちまち乾燥した台風並みの風にさらされる。肌に刺さる風塵に、美しいだけではない島の厳しさを感じた。
乾いた大地に這うように点在しているバスケット状の塊、これがブドウの樹だ。
初めて見るブドウの異様な形に驚きながらも、この島の造り手たちが風と格闘しながら生きているのがうかがえた。
島固有の伝統的なクルーラーという仕立ては、人の背丈ほどの高さになるブドウの枝を限りなく地面に近く低く、カゴを編むように新梢を巻いていく。
「バスケット型に仕立てるといってもほんの少し手を貸す程度。ブドウを強烈な直射日光や強風のストレスから守り育てる」
そう教えてくれたのは、造り手のハリディモスだった。
Pyrgos Kallistis 84700 Santorini, Greece
この島の成り立ちは、火山の大噴火によるカルデラ、だから、ブドウの育つ大地は自然の火山質土壌そのもの。
この畑も火山灰、軽石のかけらが主だ。
粘土質がまったく存在しないのだから、ほかの産地と違い、ブドウの天敵フィロキセラ(ブドウ根アブラ虫)は侵入しない。
結果、驚くほどの樹齢の自根ブドウが生き延びている。ハツィダキスの畑には、樹齢300年を越えるものも存在するそうだ。
ハリディモスの案内で、岩窟カーヴを歩く。トログロディティックと呼ばれる大きなカーヴには、熟成中の木樽が並ぶ。
一筋の光が差し込む穴を差しながら
「この風穴から地上の冷たい風を取りこむんだ」と教えてくれる。
その下には、神聖なる蜜と呼ばれるヴィンサント、とても古いヴィンテージの木樽も並ぶ。サントリーニ島で600年以上も受け継がれる、伝統的なワインがヴィンサント。濃い琥珀色が悠久の時を感じさせるようだ。
エーゲ海の孤島で、自然の力と人間の智恵により個性豊かなワイン生み出されている。この気候風土のなかで味わうと、また違う印象になるかもしれない…と歩を進めながら、考えていた。
「サントリーニ キュヴェ ナンバー15 2015」ギリシャの地品種アシルティコの白ワインがグラスに注がれる。
ユリの花のような白い花や白桃のみずみずしくも甘やか、そして透明感のある香り。
口にふくむと、白い果実のやわらかい果実味と心地良い酸味、そして潮っぽさを感じさせるミネラル感が広がる。
すっと私のなかに流れてゆくストレスのない液体は、クリアで優しい。けれど、奥底いところに凛とした力強さ、そして濃密さがある。
日本では、よりミネラル感や酸味の主張を感じ、激しさや厳しさが秘められているワインだと思った。
それをこの島のワインの趣だと、勝手に誤解していた。
潮っぽいミネラルは、火山の地中のものか、海がもたらすものなのか、と想像をかき立てられる。
目を閉じれば、太陽に輝くこの島の美しい風景が浮かんでくる。
風、火山、海の力、そして造り手の営み。それらが奏でる協奏曲は美しい。激しくも厳しい現実を秘めながらも、それを感じさせない。
人や土地と触れ合うことで、知ることは多い。旅に出なければわからなかった、その土地の個性、風土。
サントリーニ島のワインには、長い歴史に支えられた、神秘的で幻想的な魅力がある。けれど、地中海の気候のようにカラッとして陽気で明るい。まるで島の人たちそのものだ。
この島のワインは、ゆっくりゆったりと楽しむのがいい。
ハツィダキスのドメーヌでも実践していたのが、早めの抜栓。そうすることで、ワインは一層、穏やかでやわらかな表情になる。
ワインにもゆったりした島の時間が流れているということか。
ハツィダキスのアシルティコ種の白ワインは、酸やミネラルの凛とした美しい佇まいが日本の夏にもぴったりだ。
きっと光輝く地上の楽園に誘ってくれるに違いない。
この記事を書いた人は…
AYUMI IKEDA|池田 あゆ美
自然派ワイン専門店『ピクール』店主。映画業界、音楽業界、出版業界、IT業界…その時代時代で色濃く表現されるエンターテイメントが好きで、時代のニーズを捉え、それら一つ一つを私は職業としてきました。当時、男性社会と言ってもいいほどの厳しい業界をがむしゃらに走ってきたせいか、身体はボロボロ…。そんなときに訪れた地中海で「食卓」から生まれる人生の楽しさや豊かさに感銘を受け、今のナチュラルワインの仕事へと導かれていきました。ワインだけでなく、食、旅、音楽、映画など、一見関係ないジャンルの感性も大切にして、ワインを選ぶようにしています。ワイン通信販売、業務用卸売、ワインコンサル、セミナーなど、様々なニーズに丁寧にお応えします。